ころげ落ちる、チーコ。



 ごてんごてん、ごんごんごろごろごごご、どすん。
 チーコは、階段を転がって行った。
 
 
 
 ことの発端は、たいしたことではなかった。二階の窓辺で澄み切った空をゆうゆうと眺めているチーコに、ただ、ほんとうにただ、
「いーな、チーコ、お空を眺めてる、なんかおるかえ!?」
と言いながら、私はチーコに擦り寄うように、どかっと、その場に腰をおろしたのである。
 チーコは、いきなり現れた巨大物体に仰天したらしく、大きく目を見開いた!
 そして、飛んだ! 後ろ足でへりを力強く蹴り高く飛んだ。おお、すばらしい跳躍だ。これなら三段跳びにも挑戦できるぞ!
 チーコはあっという間に、階段の上から二番目に着地した。
しかし、目測をあやまったのか、バランスを崩しながら、チーコは、まるまったり、ひろがったりして、
 ごてんごてん、ごんごんごろごろごご、どすん、
 落ちた。

 不可思議な音のせいで、母が急いでやってきた。洗濯をほっぽらかして、チーコの安否を確認する。
 私も慌てて、階下へ降りた。
「う〜ん」
 チーコは、しばらくぼーっとして立ち上がった。ちどり足で前に進もうとする。

 大丈夫か? そこに居合わせたものたちは、誰もがそう思った。
 骨折してないか!? 病院に連れていこうか!? 病院の電話番号は何番じゃー!!!?

 しかし、『病院』という言葉を耳にした途端、チーコの様子が一変した。
「あーあたまがいたいにゃ、ぶんぶん、病院なんて、いかないわ、にゃ」
 チーコは頭をぶるるんと振り、背をアーチにすると、とっととっと、たったたった、と納屋のほうへ向かって行った。
 そう、さっきの危なげな足取りが嘘のように……。

 この一瞬の出来事に、野生の魂を感じた私達だった。


(05.8.18)


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